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なぜ商店街は衰退し、シャッター商店街と化してしまうのか【辻井啓作さんが教えてくれた】

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ここ数十年の間、大きな社会問題を引き起こしている「シャッター商店街」に関する問題。これまで当取材班は関西を中心に全国の商店街を巡ってきており、その中にはもちろんシャッターばかりが並ぶ商店街も数多く存在したし、さらにはそれを超えて「もはや商店街としての機能を果たしていない」商店街をも目撃してきた。

<シャッター商店街の例>

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<商店街としての機能を果たさなくなった商店街の例>

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しかし、そんな商店街がある一方で、東京や大阪を中心に「人であふれかえる」商店街があるのもまた事実であり、いわゆる「勝ち組」と「負け組」の差は年々広がるばかりとなっているのもまた事実だ。

では、これら「勝ち組」と「負け組」にはどのような差が存在するのだろうか。何が商店街を衰退させ、シャッター街にさせてしまったのだろうか。そんな問題にズバっと切り込みを入れてくれたのが、辻井啓作さんの「なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか」という本だ。

今回は、この本に書いてある内容を引用しながら、「なぜ商店街は衰退してしまったのか」という問いについての考えを記していこうと思う。

「商店街」という言葉に関する問題

先ほど挙げた「なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか」という本には、商店街の現状・商店街の抱える問題点・商店街を本当に活性化される方法といった様々な事柄が掲載されており、その中には筆者自身の実体験も含まれているため全体的に見て非常に有益な内容となっている。しかし詰まるところ、「なぜ商店街は衰退するのか?」という疑問に対しては、以下の2つの事柄しか該当しないと考えられる。この2つだ。

1.「商店街」という言葉の解釈が一致していない
2.商店街の組合がやることが正しくない

ここからは、これら2つの事柄について、1.についてはこの項目で、2.については次の項目でまとめさせていただく。

まず1.についてだ。これについて、本では以下のような記述がなされている。

「商店街という場所」と「商店街の組合」の混同

(前略)

もともと、通りや場所を指していた「商店街」が、いつの間にか組合のことを指す言葉になっている。こうした変化がどうして生じたのか、残念ながら不明だが、商店街の研究などを遡ってみると、戦前の研究では「商店が集まっている通りや場所」であった商店街の要件に、戦後の研究では「組織があること」が付け加わっていたことは確かである。

推察するに、百貨店問題が生じた当時、「商店街は組織を作って連携し、全体の品揃えによる”横の百貨店”として対抗すべき」とされた提言がひとり歩きしたのだろう。

なんだか随分とまどろっこしい(といっては失礼だが)表現が並んでいるが、要約するとこんな感じである。

商店街
1.(本来の意味)商店が集まっている通りや場所。
2.(後から加わった意味)商店街の組合等の組織。

これはつまり、もともと「商店が集まった場所」という意味しかなかった「商店街」という言葉に「商店街の組合等の組織」という意味が加わってしまい、どっちがどっちなのかよく分からないまま使われてしまっている、ということを指している。

この解釈の違いが、どんなときに問題を引き起こすのか。

国や市町村が行う、商店街活性化事業を行う際に問題が生じるのだ。

おそらく、皆さんが想像する商店街活性化事業といえば、商店街を挙げたガラポン大会やスタンプラリーといったイベントを想像するだろう。これは、「商店が集まっている通りや場所」を活性化させるための事業であり、商店街活性化事業に該当する。

だが、商店街活性化事業の「商店街」が「商店街の組合等の組織」という意味合いで使われたらどうだろうか。例えば、国や市町村から「商店街活性化事業」として行うお金を使い、「商店街組合員の結束」という名目で飲み会が行われていたらどうだろうか(こんな例はおそらく存在しないが)。さすがにこれはマズいと感じるだろう。しかし、これもれっきとした「商店街活性化事業」のひとつだ。何も間違ってることはしていない。だってこの中での「商店街」という言葉に関する役割は指定されていないもの。

上の事例はあまりに極端すぎる事例だが、ここに問題の本質がある。

本来「店を活性化」させるためのものであるはずの商店街活性化事業が、「商店街の運営組合を活性化」させるものになってしまっているのだ。

そしてその結果として、「場所としての商店街」を活性化させるはずの商店街運営組合が機能していかなくなり、加入率が低下、その中で選ばれる組合の長は「イヤイヤやらされた」感が強くなり以前の事業を踏襲、結果的に補助金通過組合になってしまっている、と辻井氏は指摘している。

神戸大学にて研究員を行っている鴨谷真氏は、以前自身が担当する授業の中で、以下のような話を行っていた。

私が活性化事業に携わっている神戸市の水道筋商店街では、集客力のあるドラッグストアたち(注:水道筋商店街には大手チェーンのドラッグストアが合計3軒ある)が商店街の組合に入ってくれないんです。確かに彼らは人を呼ぶのに役立つけど、地域の活動には消極的だと言わざるを得ません。

一見ドラッグストア側が理不尽なことをしていると感じるこのエピソードだが、考えてみればドラッグストア側の考えもうなずける話である。商店街の組合に入るなんてクソくらえ、ってわけだ。

商店街の組合がやることはお門違い

さて、先ほどまで「商店街」という言葉に関する問題を商店街の組合という組織と関連付ける形で書いてきたが、ここからは実際に商店街の組合が行う事業に関する問題についてだ。

なぜ商店街は様々なイベントを行うのか。来客を増やし、自身の店の売上を上げるためだ。しかし実際には、その施策はうまくいっていないことのほうが圧倒的に多い。

この例として挙げられていたのが、地元密着型の商店街が観光地として再生する場合だ。この場合、観光客向けの品物を販売するお店にはメリットがあるかもしれないが、逆に青果店や精肉店等、古くから地元の人に向けた商売を行っていたお店には何のメリットもない。それどころか、観光客が増えた結果地元の人が混雑を嫌ってそのお店に来なくなってしまい、業績が悪化してしまう、というのである。

大安亭市場 内部

実際に商店街を巡ってみれば分かるかと思うが、実際の商店街は青果店や精肉店、生花店、惣菜店などの様々なお店で形成されている。そしてそうであるがゆえに、商店街としての機能を根本から変えてしまうような企画は組合を通らず、結果的に行われる施策はありきたりなものばかりになってしまう、辻井氏はそう指摘している。

では、商店街の組合が本当に行うべきことというのは一体どんなことなのか。辻井氏は、以下の2つの事柄を列挙している。

1.商店の社会的役割

2.商店街組合の本来の目的

もう少しかみ砕いて説明しよう。

商店の社会的役割

まず考えなければいけないことは、商店そのものが持つ役割に関してだ。商店街に入居する商店が本来やるべきことは何か。

良いモノを仕入れ、販売し、地域に貢献することである。

であれば、何をしたいのかよく分からない、効果があるのかも不透明なイベントを開催するよりも、実際に商店にとって効果のあることを行うべきなのではないか、というごくごく単純な話だ。商店主にとっても、よくわからないイベントに駆り出されて時間を取られるよりも、一人のプロフェッショナルとして本業に専念し、売上を伸ばす努力をするべきだという訳である。そして商店街組合は自分たちが前になって出ていくのではなく、その商店主を支援する形で自身の事業を行っていくべきなのだ。

一見公益事業を行っていくことが目的となっている「商店街活性化事業」とは対立するかに見えるこの考え方だが、結局売上が無ければ店が撤退し、商店街の活性化とは程遠い状態になってしまうのだから、この考え方は実は非常に賢い考え方だといえる。なんだかどこかのパラドックスみたいだな(笑)

商店街組合の本来の役割

続いて考えなければいけないことは、商店街組合がやるべきことについてだ。商店街組合が本来やるべきことは何なのだろうか。まちづくり?イベント?地域振興?いやいや、そうではない。

商店街組合が本来やるべきこと、それは商店主の売上に繋がる事業を展開することだ。直接的に売上に繋がる事業を展開させることで場所としての商店街を活性化させる、というやり方になる。先ほども書いたが、結局売上がなければお店はやっていけないのだから、だったらその「売上」にフォーカスした事業をやるべき、という訳だ。現在の「商店街活性化事業」はとかく公共の利益ばかりを優先しがちなのだが、結局それでは商店主にはメリットはない。このことについて、辻井氏は以下のように結論づけている。

商店街活性化事業で儲かるのは、商店ではなく地主と市役所

悲しいことだが、これが現実なのだ。

まとめ 活性化事業に逃げるな

さて、ここまでなぜ商店街が衰退し、シャッター商店街になってしまうのかということについて書いてきた。ここまで様々なことを書いてきたが、結局詰まるところ、商店街が抱える問題は1つに集約される。

売上がなきゃ、やっていけない。
ということであれば、商店街を本当に活性化するために行うべきことは、商店街が本当に行うべきことは効果の不透明な事柄ではなく、効果の出そうな施策を行い、検証し、改善を重ねていくことではないか。イオングループが猛威を振るう昨今の世の中だが、その中で商店街はどう生き残っていくのか。その真価が問われている。
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