人口減少の続く国、日本。その中でも青森県は全国で2番目の減少率を誇る県となっており、その状況がいかに厳しいものなのかを物語っている。その青森県の県庁所在地である青森市は早くからコンパクトシティ政策(中心市街地に様々な機能を集め、街をコンパクトにしようとする政策)を進めた市町村として有名で、先進的な取り組みがおもしろいと、一時期は全国から注目の的となったことが知られている。
そんな青森市内の中心駅・青森駅前には青森市が主導となって再開発を行ったコンパクトシティ政策の象徴といえる再開発ビル「アウガ」が建設され、その先進性から大きな注目を集めた。しかし、この結果が芳しいものにならなかったようで、現在では当初の目的とは違う状況にあるのだとか。今回は、そんな青森駅前に位置する再開発ビル「アウガ」について、その現状と問題について見ていくこととする。
コンパクトシティの象徴事例「アウガ」
アウガは、JR青森駅前に位置する再開発ビル。青森駅前第二地区第一種市街地再開発事業によって2001(平成13)年1月に開業した。21世紀の開業ではあるものの、元々1977(昭和52)年から計画されていたものであり、長い間計画されていた再開発ビルだった。
※なお、正式名称は「フェスティバルシティ アウガ」ですが、一般には単に「アウガ」と呼ばれているため、当サイトでもアウガと呼称しています。
「青森市のコンパクトシティにおける目玉施設」として開業したアウガ。一般にコンパクトシティにおいては様々な施設が中心市街地に集めることが必要になるのだが、このアウガはその条件を見事に満たすかのように、商業系店舗を下層階に(元々西武百貨店が進出予定だったが辞退、結果専門店街となった)、公共施設を上層階に展開。「アウガに行けば(一応)一通りどうにかなる」という状態を作り出し、開業当初はそれなりに賑わいを見せた。
ところが、来客数・売上ともに低迷。空き店舗も増加し、アウガの運営母体である青森駅前再開発ビル株式会社は赤字続き。2016年には経営破綻してしまうなど、一時非常に厳しい状態に追い込まれ、青森市の報告書に「商業施設として再生させることは困難である」と書かれるほどの状況に追い込まれてしまった。西武百貨店に経営破綻・・・兵庫県宝塚市の「アピアさかせがわ」を思い浮かんでしまう展開である。
この結果、アウガは公共施設を中心とした施設に大幅リニューアル。再開発前からこの地にあった市場(B1F)を除く全ての商業テナントが撤退し、現在に至っている。この結果、商業+公共というコンセプトは完全に崩壊し、行政お得意の・・・といった現状となっている模様だ。ここからは、そんな状況となっているアウガについて、その内部を見ていくこととする。
不思議な構造の目立つ内部
アウガの概要と経緯について触れたところで、その内部を見ていくこととしよう。行政主導の再開発ビルらしく、のっけからさっそくなんだかよくわからない銅像と稼働を停止した噴水がお出迎え。「水の恵みのモニュメント」という名称なのだそうで、青森の水をアピールするために制作したのだそうだ。残念ながら稼働はしていませんでしたが。
2022年訪問時の中のフロアガイドは上のような状態。先述した通り、地下に市場・地上に公共施設という構成。分かりやすいといえば分かりやすいが、つまらないといえばつまらないか。なお、上の施設以外に駐車場棟があり、522台収容できる駐車場が完備されている。
中を見ていく。まずは地下から。地下階は「アウガ新鮮市場」という名称で展開されており、多くの鮮魚関係の店舗やその他多くの食料品関係の店舗が軒を連ねていた。さすがに再開発前から賑わいを見せていた市場、その賑わいっぷりと雰囲気の良さには驚かされる。とても再開発ビルとは思えない。
地上階を見ていこう。こちらは地下とは打って変わって非常に現代的な雰囲気が醸し出されており、確かに商業施設っぽい景色が広がっている。タイルが場所によって変わっているのが通路と店舗内との境を暗に示しており、妙にリアリティがあって本当に面白い。
階を上がっていく。しかし、何なんだこの構造は。エスカレーターとエスカレーターとの間があまりに近く、その間を通り抜けるのは可能ではあるが狭すぎてほぼほぼ不可能としか言いようがない・・・。現状、公共施設ばかりなので特にこれと言ったものは無かったが、この不思議すぎる構造には驚かされた。
アウガの不思議な構造は他にもあり、妙に立派な謎の柱が並んでいたり、地上階の入口は2か所だけなのに地下の「アウガ新鮮市場」に向かう階段だけがなぜか4か所も5か所もあったりと、何だかアンバランスな印象が拭えない。アウガの建設費は184億円と、この規模の施設としては高額と言わざるを得ないが、その裏にはこのような背景があったといえよう。
結局、アウガって何が原因でこうなったの?
商業施設としての営業を放棄し、公共施設を中心とするビルへと生まれ変わったアウガ。果たしてその裏側には、いったいどのような原因があったのだろうか。端的に言うと、行政の予測の甘さが原因だったといえよう。
確かに青森駅周辺の再開発を実施したことで、街は非常に綺麗になった。これはアウガも同様だ。しかし、綺麗になったから人が集まるのだろうか?否。人がその場所に行くのは「目的」があるから、そしてその場所に「魅力」があるから、だ。行政主導の施設はなぜか「デカいビルにテナント入れておけばどうにかなるでしょ」的な考えをしがちなのだが、それではいけない。綿密な計画のない行政主導の施設の何と多いこと。取材班からすると見ていて面白いのだが、それでは良いものはできないんですよね・・・。
なお、このアウガの計画に関しては特に良くないものがあったようで、日経ビジネスの記事にも
現在まで続く経営難に対し、計画当時を知る青森市の関係者はこう指摘する。
「計画を立てること自体が目的化していて、当初の売り上げ計画自体に無理があった。『白紙にしようか』という声も一部から上がったが、敷地内にあった市場は既に解体され、他の場所に移って仮設店舗で営業していた。引き返すなんてできなかった」。
と書かれている通り、アウガの計画は当時から追い込まれていたことが判明している。計画が甘いことは分かっていたが、時既に遅し・・・という状況か。コンパクトシティ構想にのっとって作った施設ではあったが、それに考えを傾倒しすぎて身動きの取れなくなってしまった青森市の姿がそこにありました。
まとめ:コンパクトシティを本気でやるなら官民一体で
行政主導の結果、現在のような状態となってしまったアウガ。コンパクトシティ構想という考え方は人口減少に悩む青森市にとって決して間違いではなく、富山市の事例を見ても悪手だったとは決して言いがたい。しかし、コンパクトシティを本気でやろうとしつつ、行政主導の微妙な商業施設や計画の甘さによるその閉店、そして郊外との競争に負けてしまうなど、その計画には甘さが見られたのも事実。これからの都市計画は、行政のみならず民間の力を借りる官民一体型の開発が求められているのかもしれない。