兵庫県民で、「三宮」という地名を知らない人はいないだろう。兵庫県最大の都市・神戸市の代表的な繁華街である三宮だが、実際はかなり商業施設に偏りが見られるのが現状だ。一度行ってみればわかると思うが、商業施設は三宮センター街や生田神社などのある駅の西側に集中しており、駅の東側はまるで取り残されたかのように、昭和の風景が今も色濃く残されている。
そして、今回ご紹介する施設、「サンパル」もその例外ではない。1981年(昭和56年)に建てられたこの建物は、阪神神戸三宮駅から地下道で直結、JR三ノ宮や阪急神戸三宮駅からも歩いて3-4分と、決して悪い立地ではないのだが、三宮駅の東側にあること、駅前にあるミント神戸などの影に隠れてしまうせいか、駅前にあるにも関わらず今も建てられた当初の状況を保つ、このエリアでは稀有な存在となっている。
しかし、そんな状況下にあるサンパルにも、再開発の波が押し寄せている。サンパルを含む一帯エリアを再開発し、高さ165mのビルと80mのビルを建て、バスターミナルや図書館、公共施設や大規模ホールなど、様々な施設を建造する計画が進んでいるのだ。この計画は既に進行しており、2021年度末には土地と建物の立ち退き、2022年度には解体・新築工事が進むこととなった。すなわち、サンパルの光景はもう見られなくなってしまうのだ。
ということで今回は、この建て替えを行っている施設・サンパルについて、建て替え前の様子と将来の予定についてお伝えする。
建替え前のサンパルの現状
さて、一通り説明したところで早速サンパルの内部に潜入していこう。
サンパルの入口は、こんな感じだった。いかにも昭和らしい外観がお出迎え。今年度中に解体するのだ、そんなもんだろう。しかしこの光景も見納めだ。何気ない光景ではあるが、そう考えると少しさびしい。
サンパルの内部はこんな感じ。インフォメーション上では、B1Fから5Fまでがショッピングセンター、6Fから10Fまでがオフィスとなっている。
しかし実際のところ、商業施設はB1F,1F,2Fの3フロアしかなく、3Fから10Fは全てオフィスとなっている。「休日案内」にも載っているのだが、これは今に始まったことではなく、かなり前から行われているようだ。これも閉鎖直前にはかなり退去も進んだようで、全く事務所も入っていないフロアもある。しかし上のフロアマップを見てみると、別に今だから空いているとも思えないように見えるのは筆者だけだろうか・・・。
何はともあれ、とりあえず中に入る。こちらは商業施設棟の写真だ。昼間のにぎわう時間であるはずのこんなときでも、サンパルには静かな時間が流れている。いくらお店が少ないとはいえ、昼の昼だぜ、これ。さすがに悲しみを抑えきれない。
地下飲食街にも来てみた。11時ごろの訪問だったからか、お店自体は準備万端、といったところだろうか。しかしお客さんの数は非常に少ない市、シャッターが閉まったままのお店もあるあたり、このへんも限界まで来ているのだろう。この飲食店はどこにいくのだろうか。1Fには松屋・はなまるうどんといったリーズナブルな飲食店も多数軒を連ねているが、これらのお店は再開発とともにどうなっていくのか。周辺住民・勤務者のライフラインとなっているだけに気になるところである。
エスカレーターを使って上へと昇っていく。それにしても、どうしてエスカレーターの一つだけをとってもこんなに時代を感じてしまうのだろうか。エスカレーターというところにはこんな事情があるから興味深い。
オフィスフロアにも来てみたが、やはりすべての階が営業していないこともあってか、入ることすらできない階もあった。これまで似たような施設を多く見てきたが、結局どこも都合の悪いところを見せたくないのだ。
もちろん全ての階に入れないということは決してないし、一部の階においてはエスカレーターからも入ることができた。ちなみにこれは7階の写真だが、入居率は2~3割といったところか。追い出しが進んでいるのは重々承知だが、それにしてもひどいなおい・・・。
とはいえ、そこはあくまでオフィス。一般人には縁のない世界が広がっていた。
雲井通5丁目地区再開発事業とサンパルの未来
さて、こんな状況下にあるサンパルだが、冒頭でも書いた通り、このエリアには再開発の予定がある。名付けて「雲井通5丁目地区再開発事業」だ。
これについて、「雲井通5丁目再開発株式会社 事業概要」では、このように解説されている。
「三宮周辺地区の『再整備基本構想』」及び平成30年3月に策定された「新たな中・長距離バスターミナルの整備に向けた雲井通5・6丁目再整備基本計画」に基づき、雲井通5丁目における市街地再開発事業の事業化に向け,民間事業者のノウハウ・資金等を最大限に活用し,新たな中・長距離バスターミナルと都心にふさわしい高質な都市機能の整備に向けた事業計画案の策定を進めます。
うーん、何を言っているか正直分かりづらい。要約するとこんな感じだ。
- 井通雲5丁目全体を再開発する。
- 中長距離バスターミナルをつくる。
- 新たな都市機能施設をつくる。
そして、これをもとにして作られた基本計画がこれだ。
これを見ればおわかりになるかと思うが、非常に規模の大きな再開発となる。これまで様々なエリアに分散されていたバスターミナルを一挙に集約するほか、オフィスやホテル、それに多くの公共施設が入居予定となっている。
ここで、疑問に思う方がいるだろう。「こんなに公共施設のスペースが必要か?」という問いだ。上の図によれば、青色・オレンジ色で塗られた部分は全て公共施設になる予定だ。店舗フロアよりも公共施設のほうが圧倒的に広いなんて、と感じる方もいるかもしれない。
しかし、これにはある事情が絡んでいる。下の図を見てほしい。この図は、今回再開発が行われるエリアを示したものだ。なお、雲井通5丁目は下の1期にあたる。
これを見ればお分かりになるかと思うが、今回再開発が行われるエリアには勤労会館や区役所といった、既に公共施設として整備される部分が多く含まれているのだ。この点から、今回の再開発ビルには公共施設エリアが多く取られることになっている。図書館やホールも現在勤労会館にあるものを移転する、という形になっており、これも理にかなっている。今回の再開発事業は、いわば「たくさんあるビルを、一つに統合する」、そんな形の開発となっているのだ。
まとめ
いかがだっただろうか。今回は、2021年度で閉館したサンパルの現状と、これからサンパルとその周辺で起こる再開発事業について解説した。苦境にあえぐ神戸市にとって、この再開発は神戸市のこれからの運命を握るといっても過言ではないだろう。昭和の光景がまたひとつ無くなるのは寂しい限りだが、神戸市がこれからどう変わっていくか、その未来を楽しみにしながら見守っていこうと思う。